Ⅲ 世界ソーシャル・ポリシー
私がこの論文で主張することは単純である.我々が20世紀に「福祉国家」の達成に成功したように,21世紀に「福祉世界」を現実のものとするために,我々の思想と戦略を動員しなければならないということである.
我々は世界における絶対的貧困の削滅を目標とする新しい世界ソーシャル・ポリシーを発明しなければならない.ただし世界の状況を考えるとき,短期的には我々は非現実的な目標を.設定すべきではなく,絶対的貧困を削滅するに必要な必要最低限に標準を限定すべきであろう.
世界ソーシャル・ポリシーは世界経済政策の変革を要求するであろう.そして最も重要なことは多国籍企業の統制であろう.
世界における3つの問題ないし危機
今日人類が直面している最も緊急な問題ないし危機は3つのカテゴリに要約出来るであろう.すなわち,欠乏[Want](饑餓的絶対的貧困,人口爆発);荒廃[Waste](地球規模の環境破壊),戦争[War](狂気の殺戮と難民の排出)である.それらを3Wと呼ぼう.
この3Wは相互に密接に関連している.絶対的貧困はしばしば戦争が原因であり、戦争の原因はしばしば絶対的貧困である.環境はしばしば絶対的貧困と戦争によって破壊される.それらの中で環境問題はある意味で最も深刻である.というのはある種の環境破壊は取り返しが付かないとされているからである.
同時攻撃の必要
これらの3W問題はすべて相互に密接に関連しているので,同時に組織的に攻撃しなければならない.ブライアン・バーローズ,アラン・メイン,パウル・ニューベリーら権威者たちは彼らの非常に説得的な本『21世紀への突入:維持可能な未来のためのハンドブック』(注5).の中でこの点を大きく強調している.彼ら序文の中で次ぎのように書いている.
本書の第3部では,無策の継続(continued neglect),断片的対応(piecemeal solutions)及び全体的アプローチ(holistic approach)という3つのアプローチのもたらすシナリオを比べることによって,世界的諸問題への諸代替的アプローチの結果を検討している.増大する人間が創出した諸問題の解決が期待できるのは,妥当な惑星マネージメント・システムを伴った,全体的アプローチだけであるということが示された.そして今すぐ行動すること(ACT NOW)が重要である.なぜなら我々は間もなく取り返しのつかぬ時点に到達するからである.我々の未来の生存は多くの諸要素の非常に微妙な相互作用とバランスに懸かっている.我々には,このバランスを保つために我々の行動を変 えるか,破滅的状況にいたるか,の選択しか残されていない.我々は我々のこの惑星(地球)なしには生きてゆけない.しかし我々の惑星はわれわれなしでもやってゆける.
新しい思考これまで発明されてきた諸モデルは主として西欧の産業化諸国にあてはまるものであった.それらは開発途上国あるいは未開発国に直ちに適用できるものではない.
地球の容量を考えると全ての国々が,現在高度に発達した国々が達しているレベルまで生活様式を高めることは不可能と思われる.我々は社会開発(social development)に関する我々の思想を根本的に変えなければならないであろう.幾つかの富裕な国々はその生活水準の幾つかの重要な局面を低めなければならないかもしれない.
我々は近代化という哲学さえも変えなければならないかもしれない.我々はお互いの文化の多様性を理解し尊重し,共存共栄することを学ばなければならない.人々には自分の文化のなかで平和に暮らす権利がある.我々はまた安全で他の生物とも共生できる地球環境を確保しなければならない.
変革主体の問題
戦術的論理的にはもし全ての国々が「福祉国家」になれば,「福祉世界」は簡単にたちどころに成立する.しかし国連加盟の国々にさえ,抑圧的非民主的な国々があまりにも多く,国家の主導にあまり多くを期待することは現実的でない.諸NGOや国際的に協力する市民社会の役割と任務に注目を払う必要がある.私は世界には,福祉世界という理想の創出に強く傾倒している多くの人々また組織があることを知って勇気づけられている.
我々が,世界の現実を見,そして諸文化の多様性,その諸伝統の複雑さ,膨大な世界の人口などを考える時,「福祉世界」はほとんど一つの夢である.しかし我々は,世界の全ての人々,特に既にこの理想にコミットしている人々と共に協力して,この夢を具体的なヴィジョンに変えなければならない.出現しつつある革命的な「情報化社会」は,この点に関する楽観主義にいくらかの根拠を与える.
注(5)Brian Burrows,Alan Mayne,Paul Newbury,Into the 21st Century:A Handbook for a Sustainable Future, Adamantin
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(参考文献抄)
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