B 三つのW

福祉国家の社会問題の三局面を以前は,3D(destitution 貧窮,disease 疾病,delinquency 非行犯罪)と表わした.これをグローバルに延長すれば3W(a絶対的貧困WANT,b地球規模の環境破壊WASTE,c戦争WAR)になる.

 この三Wの克服は持続可能な(sustainable) な地球と世界の上で一応安心して暮らせる最低条件である.

 

 

これらはお互いに密接に相関連しているから,同時にアタックするのが効果的である.

 aの絶対的貧困は社会福祉の初心であった.国連の報告では今日人類60億の内13億が饑餓的貧困の状態にあるいう.福祉国家の初心は貧困の削滅であった.20世紀に民主的産業先進国では大体解決したと言ってよいであろう.これをグローバルに広げて全ての人類に及ぼすというのは自然といえないか.

 

  勿論簡単に言うがなまやさしいことではない.貧困研究はいろいろなされているが私はさしあたりT.H.マーシャルの言う許しがたい(intolerable)絶対的貧困の削減を目標にすべきと思う.最低自分の文化の中で三度(二度でもよい)の食を安心して食べられることである.そのような条件でさえ満たされていないのが実状である.この問題はある意味では解決しやすい.絶対的貧困の解消には世界の軍備費の1%を回せば解決すると言われている.世界のトップの3人の資産は最低位の6億の人々の資産に匹敵するという.

 bの環境破壊はある意味で最も危機的である.生物としての人類存在の根底を揺るがす問題である.地球温暖化や環境ホルモンの問題など含みが大きい.人口問題もここに入るであろう.人口爆発は食糧問題とも絡んで将来の大きな脅威である.識者は警報を鳴らしているが対応は遅れている.持続可能な発展(sustainable development) という言葉はキーワードである.

 

  cの戦争はある意味では最も手ごわい複雑な問題である.人間性の理解という大きな要素を抱えている.20世紀は戦争の世紀であった.人類は数千年のもう十分な歴史と経験をえているのに愚かな殺戮が絶えないのはどうしてか.平和は人々が戦争の悲惨を知り平和を祈るだけでは達成できないように思われる.社会科学的(人文科学も自然科学をも総合する)叡智を結集して国益・企業益でなく人類益・地球益に立った真に有効な戦術を発明して実行することのみが有効のように思われる.

 

これらの三つは人類が世代から世代へ生命を引き継いで行く最低限の条件である.これらの基礎の上に各民族が個性ある文化の花を咲かせばよいのである.

 これらの三つが密接に関連していることは少し考えれば分かる.ということは,これらの三つは同時にアタックする必要があるということである.