第6章 「福祉国家」から「福祉世界」へ Ⅱ

全地球的規模の絶対的貧困

 しかし我々が全地球的な状況に目を転じるならば,そこには福祉国家主義への傾倒がはるかに少ないことを発見する.地球上には巨大な量の絶対的貧困が残っている.1995年コペンハーゲンで貧困問題を取り上げて開かれた「国連ワールド・サミット」の会議資料は次のように述べている.

  13億の絶対的貧困の人々が,1978年に世界銀行の頭取であったロバート・マク ナマラが,「栄養不良,文盲,病気,不潔な環境,高乳幼児死亡率,低余命,など人間 らしさのどの合理的基準をとっても甚だ低い限られた状況」と述べた状態で生きている.  全体のうち,15億の人々は清潔な飲料水,衛生的な環境なしで生きている.そのほ とんどの人々は飢えたまま寝る.
  彼らは,住宅や持ち物や生産手段が破壊されたとき余裕がほとんどないので,飢饉や洪水や暴風のような天災には特にもろい.28億の世界の労働力のうち,1億2千万の人々が積極的に職を求めているが満たさ れていない.  絶対的貧困のうちの絶対的多数である7億の人々は,長時間労働をし,しばしばそのぎりぎりの基本的必要をカバーするにも程遠い重労働を強いられており,潜在的失業として類型づけられる.そしてその圧倒的多数は女性である. その4分の1は東アジアに住んでいる.
  貧困な人々の80%は農村地帯に住み,その大多数はアジアとアフリカに住んでいる.そのほとんどは土地を持たず,農場を持っても十分な所得を生むにはあまりにも小さい. 極端な貧困はアフリカ,それも特にサハラ砂漠の南一帯の諸国に集中している.アフ リカの人口は世界の16%であるが、その半数を優に越える人々は貧困である.
  貧困な人々の最多数,その半分以上は南アジアの諸国において辛うじて生計を立てている.

その4分の1は東アジアに住んでいる.
  貧困な人々の80%は農村地帯に住み,その大多数はアジアとアフリカに住んでいる.そのほとんどは土地を持たず,農場を持っても十分な所得を生むにはあまりにも小さい. 極端な貧困はアフリカ,それも特にサハラ砂漠の南一帯の諸国に集中している.アフ リカの人口は世界の16%であるが、その半数を優に越える人々は貧困である.貧困問題の権威英国ブリストル大学教授のピーター・タウンゼンドは1995年の11月来日され,東京の淑徳大学での「地球規模の貧困:その問題は解決不能になりつつあるか」(Global Poverty:Is the Problem Becoming Impossible to Solve ?)という講演で,現在の世界の貧困を次のように要約している. 

コペンハーゲンのサミットにおいて署名した諸国は絶対的貧困を削滅し一般的貧困を減少させるための国家的計画をそれぞれ樹立することに同意した.1960年代より数次の経済改革プログラムが主唱され採用されてきたにもかかわらず,ますます多くの政 府,NGO,科学者たちが,重大な諸問題が残っているばかりでなく状況はより悪化していると信ずるようになってきている.この論文は社会的二極化という現代の地球規模の根本的な問題に注意を向けてもらうためである.多くの国々の内部にも,また富める国々と貧困な国々との間にも,不平等が広がり貧困がますますひどくなるという傾向は否定できない.この論文は,諸国の内部の貧困が,国家間の貧困とどのように関係しているかを説明しょうとする.第一に国際的貧困の科学的測定を避けてきたことが,国際 的な共同社会形成を妨げてきた.第二に,世界の安定したまた不安定な地域の状況に関する弱腰の比較分析が場違いの理論と社会開発政策を導入している.例えば,世界銀行の戦略は,大量貧困を存続させ深刻化させさえしている理由に対する実際的な分析に真に由来していない.結局主要な問題は,諸政府・国際機関の側が,国際的な権力のヒエラルキーと対決し,支配的な構造的諸問題,労働市場の問題ばかりでなく,多国籍企業勢力,国際的組織そして民主主義的表明の問題を取り上げること,を拒否しているところにある.